「Stay With Me」 Text by さわら 冬枯れの枝をすり抜けてそっと、時には激しく雪が積もっていく。 黒いアスファルトは灰色から白く、そして溶けて土色に戻っていく。 そんな光景をただただぼぅっとガラス越しに眺める日々が、私のほとんどだった。 その季節以前に私のほとんどだったものは、現在、私の手の届くところにはいない。 遥か彼方、思いを馳せることも叶わず、幾度となく繰り返される同じ光景を眺めては、 「時々むしょうに切なくなって」 「時々むしょうに不安になって」 「時々むしょうに泣きたくなった」 去年の秋、そろそろ冬の訪れを肌で感じ始めたあの日。 彼が突然言った。 「暫く君に会えなくなると思う。それはどれくらいの期間になるかわからない。」 「…ごめん」 彼の横であれこれと、 「今度編むマフラーは何色がいいかしら?」 などと話しかけていた私にはあまりにも突然のことで気が動転し、カタログを取り落としそうになるのを必死にこらえた。 「昨日会社から命令が出たんだ。今度は長い出張になる。そして遠くになる。」 こんなとき私は弱い。 「私も行く。連れて行って」 とか 「やめられないの?」 とは絶対に言えない。変わりに言った言葉は 「応援してる。頑張ってきなよ。すごいチャンスじゃない。大きくなって帰ってきて私を驚かせてよ。」 だった。 彼は喜んだ。そして、本当は私が望んでいないのに、彼は望んでいると誤解したまま行ってしまった。 馬鹿みたいだった。自分に正直になれないなんて。 いや、正直なのだ。彼の為になるなら私が少し我慢すればいい。これは嘘偽りのない気持ちだ。 だけれど、彼に側にいて欲しい。肩を抱いていて欲しい。これもまた嘘偽りのない気持ちだ。 どちらが本当の私なのか解らなくなることこそが、身悶えするほどに辛いことだった。 新しい生活が始まりは、新鮮さはなく虚無間だけが支配していた。 不安なのに強がって、元気だよって無理をして。 一人じゃ不安だから、二人でいられた思い出を何回も見つめた。 周りにはすぐに気が変わるって呆れられた一日一日は過ぎてゆくけれど、気が変わるどころか深みにはまっていく。 そんな自分が可愛くも有る一方、そんな自分が怖くも有った。 だから余計に思い出を見つめた。 現在から目を背けるために。 季節は変わり、彼と過ごせなかった冬になった。 今年もあの光景をただただぼぅっと眺める日々の始まりだ。 そう思い始めた、ある日。 突然の出来事。 一通のエアメール。 一言、 「クリスマスに帰るよ」 その殴り書きに、嬉し涙がこぼれそうになるのを我慢した。 もうすぐ帰ってくる。 この生活も終わりになる。 待つのはもう嫌だ。 そして、私は何回もデートした公園で待っている。 あの懐かしい声を聞くために。 会えない時間が愛を育てると言うけれど、 それは少し違って、 会えない時間が切なさを連れてきて、 その切なさが、愛を大きく見せてくれるスパイスになる。 雪が降ってきた。 少しばかりスパイスがききすぎた愛情は、掌の雪と一緒に溶けていく… そして、 あなたに、 溶ける。 <了> 〜あとがき〜 多分わかる人にはわかると思いますが、ある曲からインスパイアされて できたショートショートです。 基本的には王道を踏襲しつつ、少しだけ自分の体験を織り交ぜてみたり しました。それが成功したかどうかはわかりませんが… クリスマスといってもあまり浮かれきったような物は好きじゃなくて、 少しかげがあるような物が好みな私なんで、自然と文章の雰囲気は 暗くなってしまいました。 "白い雪"というよりは、"灰色の空"というイメージでして、だから こそ綺麗な物がより綺麗に見えるんだろうなって事も思ったりして います。 まぁ、正直私過去のクリスマスは女の子と一緒に過ごしたことが ないので、よくわからないというところもあるんですけど。 毎年計ったように直前で別れたりとかしてたもので… ともかく、この時期にしかかけない物ですから筆のおもむくまま 書いてみました。 そのうちいい出来事がありますように。 自分にエールを送ってあとがきとします。 さわら