「Stay」  二年生の夏。  ――その、終わり。 「良かったじゃないか」 「……」  肩をばしばし、と叩かれる。 「痛いよ」 「ああ、すまん」  ツンツン頭の幼馴染は、はは、と笑った。 「だいぶ先輩に睨まれたみたいじゃない」 「いいよ、悠のためなんだから」  さらりとそんな台詞を言えるのも、多分幼馴染の特権だろう。 「どうでもよかったんだけどね、ほんと」  大事な陸上大会。  夏のインターハイに向けての予選で、私は致命的な怪我を負っ てしまった。当然競技にはドクターストップが掛かり、結局、陸 上部を引退する羽目になった。 「特待生が走れなくなったんだから、当然だし」  教室の壁にもたれて、私は膝を抱え込んだ。 「何のために頑張ってきたのか、ほんと、ワカンナイ」  ぎゅ、と顔を膝小僧に押し付ける。  カナカナ……窓の外から、ヒグラシの声。  それがとても、哀しかった。 「走るだけじゃないだろ」 「慰めてくれるのは嬉しいんだけどね」  走るだけが私の取り柄だったのだ。 「今まで出来なかったことをするとか」 「今更」  私は顔を上げずに言った。  走れなくなった私に、学校の理事会はそれとない退学を打診 してきた。勿論――学費を払えるなら別だが、という意見もつ いてはいたけれど。 「まだ一年半もあるだろ、一年半も」 「……」  腐れ縁たる幼馴染くんは、学校を去りかけた私のために署名 活動をしてくれた。そのおかげで、私は元の待遇のまま――こ こに居られることになったのだ。 「ここに居られること、には悠には意味がないわけじゃないだろ」 「……」  私は答えなかった。 「署名だって。俺じゃなくって、あいつが言い出したことなんだ ぞ」 「……え」  そんなの、初耳だった。   「でも、そんなこと、一言も」 「そりゃ言えないよ、あいつは。そういうやつだし」  いつものように、いつものとおりに、空き教室で本を読んでい る学生服――今日読んでた本の話しかしない、そいつの顔が、浮 かんで、直ぐ消えた。 「なんとかかんとかっていってたぞ。居場所は見つけるものだ、 道は創るものだ、とかなんとか」  私は顔を上げた。  短く切りそろえた、ショートの前髪が風に揺れる。 「お礼、言わなくちゃ」 「だろう、な」  私は幼馴染に手を差し出した。 「ありがとう」 「どういたしまして……というか、俺より先に言ってやれ、あい つに」  くい、と顎を動かす。  教室の扉。  そこに持たれている後姿が見えた。 「いつから……?」  落ちこんでいた台詞を聞かれていなかっただろうか。  私は赤面した。 「さぁ、いつからだろうな」  すっとぼける幼馴染に、私は蹴りを入れた。