「小道・A」  目を細めて、太陽を背にする校舎を見上げた。  沢山の思い出が詰ったこの場所。  そっと目を閉じて、想いを馳せる。  これは、終わり。  卒業という名の、終焉。  そして、これは、始まり。  卒業という名の、出発。  カーテンが、ゆらゆらと揺れている。  空き教室。  そこの窓際に座って、揺れているカーテンを眺めていた。  ショートの髪の毛。  こないだから伸ばし始めたその髪の毛が、セーラー服の スカーフに触れているのがわかる。  そこには、会話も何もなかった。  ただ、沈黙だけ。  カーテンが、ゆらゆらと揺れている。   「なぁ」 「ん?」 「なんで『今』になってこんなこと言い出したんだ?」 「さぁ、なんでだろ」  私は肩を竦めた。 「思い付いたんだから、しょうがないじゃない」  卒業式の翌日。  ちょうど日曜日だったから―― 「誰も居ない校舎を3人で歩きまわりたかったのよ」  うん。  それは意外に――想像以上に、楽しかった。 「いい風」 「それにつきあわせられたこいつは――」  いつも側にいた幼馴染は、そいつを指差した。 「いつものように朝から俺たちの後をついて走らされた わけだ」 「あの坂をね」  私は片目をぱちんと瞑って見せた。 「似合わないぞ悠」 「うるさいわね」 「あんな急な坂を、3年間ずっと使ったのはオレたちぐら いなもんだ。まったくもう」 「いいじゃない、それで体力がついたんだから」 「筋肉痛で半年ぐらい死にそうだったんだぞ」 「あら、そうだったの。知りませんでしたわ」 「気取って言いやがって」  そいつは小さく膨れた。  窓からは、小道が見える。  木々の向こうで不意に途切れているのは、そこからが急な階段 だからだ。 「ねぇ」 「ん?」  机の上に行儀悪く腰掛けたそいつは視線を向けてくる。 「歩き疲れた、って思いそうな――そうね、十年後」  私は、言った。 「また、会おうよ、ここで」 「別にいいけど」 「随分アバウトな話しだなぁ」 「いいじゃない。向かい風だって陽射しだって凹むことは一杯ある でしょうけど。休みが十年後にある、って思えばなんてことない―― でしょ?」 「あーあ、おまえのせいで悠までがリリカルに」 「うるさいな、うるさいなっ」  そいつが顔を真っ赤にして――最後の日だというのに――持って いる文庫本を、振り回した。 「じゃぁ、約束」  3人、立ちあがって、小指を――絡めた。  歩き出す。  悠久とも思える季節の中で。 春の訪れ、それは別れと出会い、終わりと始まり…  おそれずに一歩踏みだそう。きっと上手く行く。  だって、そこに道があるんだから…  疲れたら、休む場所がある、という約束をズボンのポケットに 入れて。  前を向いて、未来の私に、なろう――!          Inspire From Teafloat Presents"悠春"